伊東達矢校長ブログ

2025.11.30

感情労働

 感情労働とは、1940年生まれのアメリカの社会学者、アリー・ラッセル・ホックシールドによって提唱された言葉です。
 身体を使った作業による肉体労働、頭を使ってアイデアなどを創出する頭脳労働に対し、感情労働は、ホックシールドが例に挙げた客室乗務員のほか、看護師や介護士など、人と関わる職業がそれに当たります。自分の感情を誘発したり、抑圧したりして管理することが職務です。
 子どもという人間に常に関わる小学校の教師も、感情労働に従事していると考えられます。
 やんちゃな言動が腹を据えかねたとき、怒りを静めるために深呼吸するといったアンガーマネジメントを実践します。
 問題行動を繰り返す子どもに対し、その成育歴を想像することで認知の枠組みを変え、感情を調整しようとします。
 わざと怒ってみせたり、大げさに褒めてみせたり、オーバーなリアクションをしてみせたりして、子どもに働きかけます。
 こうした感情の管理なくして教師の仕事は務まりません。子どもの精神的な成長を促すには、子どもの感情を、子ども自身が豊かに表現できるように引き出すことが必要だからです。
 その意味で、接客サービスと学校教育とは、重なる部分があるように見えて、本質的に違っています。
 接客サービスの場では、心にもないお世辞を口にしたり、作り笑いをしたりして顧客の歓心を買うこともあるでしょう。顧客の側もそのことをある程度わかっていてサービスを受けます。
 一方、学校で教師が子どものご機嫌取りをするなど、全く望ましいことではありません。子どもにおもねる教師は、かえって子どもの信用を失います。子どもたちは「優しいだけの大人」を信頼しません。「間違ったことをしたときにちゃんと叱ってくれる大人」を求めています。子どもは自分が未熟であることを自覚しています。子どもには、自分を成長させてくれる大人を見抜く力が備わっています。大人の表層的な優しさを、子どもは鋭く見抜きます。
 教師という職にある者は、子どもを適当にあしらったり、ごまかしたりすることを厳に戒め、感情をうまく管理して子どもと接しなくてはいけません。

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