伊東達矢校長ブログ
2025.12.22
「頑張っても意味がない」
人は才能をうらやみます。
勉強でも運動でも「できる子」は称賛されます。
子どもの意欲を高めるため、大人はよく「頑張れ」と言います。頑張っている子を褒めます。自分なりに頑張っているのなら、他者と比べる必要はないと諭します。
でも、子どもは同じ集団の中での評価にとても敏感です。そして、及ばないのは自分に才能がないからと思ってしまいます。
教育の場では、アインシュタインの言葉とされる「天才とは努力する凡才」がよく使われます。才能は先天的なものでなく、努力を積み重ねることで作られるものだということを伝えるためです。もし、才能は天賦のもので、いくら努力しても得られないと言ってしまうと、子どもに努力する意義を教えられなくなります。天才と言われる人たちも人一倍努力をしてきたという物語が必要なのです。
学校における子どもたちの本分は勉強ですが、その勉強の「できる/できない」も才能によるものだと思われています。
大人になって、自分には算数の才能がなかったとか、絵を描く才能がなかったとか言う人がいますね(わたしです)。でも本当に才能がなかったのではなく、苦手意識を才能のなさで言い訳していたのではないでしょうか。才能がないから「頑張っても意味がない」と決め込んでしまうのです。
天賦でない才能は、適切な方法のもとで努力をすることで見つかるものでしょう。だから、子どもに無限の可能性があるというのはあながち間違っていないのです。教育に携わる者には、学習者に合った方法でその可能性(=才能)を引き出すことが求められます。その上で、学習者はそれぞれ自身の才能を発揮できるように努力しなくてはいけません。自分に合った努力の仕方でなければ、せっかくの努力も無駄に終わります。適切な努力を重ねて成果を得られたとき、その才能が発揮されたと言うべきでしょう。
テストで点数を取れず、叱られてばかりいると、子どもは学習への意欲を失っていきます。「まだできる」という段階なら頑張れますし、「怠けていた」という自覚があるならやり直せます。
しかし、「これ以上何をしても追いつけない」と思ったら、才能のない自分は「頑張っても意味がない」と感じ、自信を失い、行動を改善しようとしなくなります。自己肯定感も低くなります。
これは、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンが提唱した「学習性無力感」の状態です。学習性無力感とは、結果が伴わないことを何度も経験していくうちに、何をしても無意味だと思うようになり、たとえ結果を変えられるような場面でも行動を起こさない状態のことです。環境や心理的な条件によって誰の身にも生じます。
学習性無力感に対処するには、「やってみたらうまくいった」という達成感の得られる行動を少しずつ増やすことから始めるしかありません。例えば、「決まった時刻に起きる/寝る」「毎日宿題を1題(だけ)解く」といった自分で決めたルーティン、日常生活の中の小さな目標を実行することです。
「やってもうまくいかなかった」というときには、周りの大人や友だちと一緒にその原因を考えるように習慣づけます。その子に合った「こうすればうまくいくかもしれない」という方法を見つけることで、もう一度挑戦しようという意欲を高めるのです。
どんなに努力してもかなわない他者と自分を比較するのではなく、自身の中にある才能の存在を探そうとする気持ちを持つことが、学習性無力感からの脱却につながります。

伊東 達矢
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