伊東達矢校長ブログ

2025.02.10

いじめは損

 一人を孤立させ、大勢で痛めつけるいじめは、当事者同士の関係だけでなく、所属するクラスの雰囲気も悪化させます。誰もが弱いものいじめはいけないと知っているのに、なかなかなくなりません。
 いじめは英語でブリィーング(bullying)と言いますが、嫌がらせを意味するハラスメント(harassment)の一種であり、過剰または根拠のない非難を意味するバッシング(bashing)とも重なるものです。そしてこれらが大人の世界でも横行しているのは周知の通りです。大国が小国を力でねじ伏せようとするのも、いじめの一つと言えるでしょう。
 どの学校にもいじめに対処する部署が設けられています。本校にもいじめ防止対策委員会があります。そうした会議の場で、どのような行為をいじめとするかが話題になることもあります。
 文部科学省が1986年に実施した「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」以降、いじめの定義は次のように変遷してきています。

【1986年度からの定義】
 「いじめ」とは、「①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの」とする。

 8年後の1994年の調査で定義の一部が変わります。

【1994年度からの定義】
 「いじめ」とは、「①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」とする。なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。

 「学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの」が削除され、「いじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」が追加されました。
 さらに12年後の2006年の調査で変更されます。

【2006年度からの定義】
 個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

 「一方的に」「継続的に」「深刻な」といった文言が削除され、「いじめられた児童生徒の立場に立って」「一定の人間関係のある者」「攻撃」等についての注釈が追加されました。
 そしてその6年後の2013年、いじめ防止対策推進法が成立し、明文化されます。

【2013年度からの定義】
 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

 同法には、基本理念として、「いじめの防止等のための対策は、いじめが全ての児童等に関係する問題であることに鑑み、児童等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わずいじめが行われなくなるようにすることを旨として行われなければならない」と記されています。いじめは、当事者だけの問題ではなく、全ての児童に関係する問題なのです。
 いじめには、「殴る」「蹴る」といった暴力系いじめと、「物を隠す」「嫌なあだ名をつける」「陰口を流す」「無視する」といったコミュニケーション系いじめがあります。前者は具体的で経過の確認もしやすいのですが、後者は証拠が残りにくく、因果関係をつかむのが難しくなります。いじめ防止対策推進法に「インターネットを通じて行われるものを含む。」とわざわざ書かれているのは、SNSなどによる誹謗中傷の拡散が子どもたちの間でも広がってきているからでしょう
 具体的に教員はいじめにどう対処するか、一例を紹介します。
 いま、Aさんが担任に「Bさんに仲間はずれにされている」と訴えてきました。
 このときに重要なのは、実際に起きたこと(事実)と、それについて感じたこと(評価)を分けて考えることです。
 Aさんが「いっしょに遊びたい」と友だちのBさんに話しかけたのに、Bさんが返事をしなかったという情報なら、事実として確認できます。ただ、それを「Bさんに仲間はずれにされた」と感じたというのは、Aさんの受け止めによる評価であり、事実とは別です。Bさんは、「仲間はずれになんかしていない。Aさんの思い込みだ」という評価をするかもしれません。
 教員は子どもから聞き取りをする際、まず事実を重視します。「どう感じたか」を聞くことも大事ですが、「何が起きたか」という事実を確認することにより神経を使います。だから他の子に聞き取りをするときには、「Aさんが仲間はずれにされていると思うか」とは聞かず、「最近Aさんが教室に一人きりでいることはないか」「Aさんの悪口を言っているのを見聞きしたか」というように、事実を引き出す聞き方をします。そうすることで、仲間はずれを促すような言行が浮かび上がってくることもあります。「仲間はずれにされた」とAさんに感じさせるまでにどのような事実があったのか、一つ一つ拾い上げていくのです。
 小学生のいじめに、特別な問題や背景があることは多くありません。ちょっとしたきっかけで発生し、広がるものです。特にコミュニケーション系いじめは、対象を変えて繰り返されるのが特徴です。
 いじめ対策は、発生したいじめに対処するだけではなく、いじめの起きにくい環境をつくることが大切です。ただし、「いじめはだめ」「見つけたら厳しく指導する」と繰り返し注意してもあまり効果はありません。教員に見つからないような形で陰湿化し、ますます見えにくくなります。問題の本質は、いじめがいけないことだとわかっていながら、なくならないところにあります。
 いじめを起きにくくするには、いじめが全ての子にとって損になるものだと教えることです。いじめる側はいじめることで、一時的な快感を覚えます。また、いじめた側に厳しい罰が与えられたら、いじめられた側も一時的に溜飲の下がる思いをするでしょう。しかし、こうした状況でのクラスの人間関係はとても不安定です。いつまた誰がいじめられる側になるか、わからないからです。絶えず周りの顔色をうかがい、びくびくしながら過ごす、ひどく居心地の悪いクラスになるでしょう。
 いじめによって失われるものの最たるものは、友だちを信用できず、クラスの雰囲気が悪化し、学校が楽しくなくなることです。こんなコスパの悪い行いはありません。いじめはどの子にとっても損になる行為だと、子どもたちの間で共有されるようにしていく必要があります。

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