伊東達矢校長ブログ
2022.08.09
伝える力
校長室の前に、「最近身のまわりにあった楽しいこと、うれしいことを、1分で校長先生に話してください」と掲げています。表現力、つまり伝える力のトレーニングです。休み時間に校長室を訪れる子どもたちに声をかけると、けっこう応じてくれますが、なかなか60秒も持ちません。
たとえば、「きのうわたしの誕生日で、友だちがプレゼントをくれてうれしかったです」と言った子がいました。これでは10秒もかかりませんし、具体的な内容が伝わってきません。
そこで「何をプレゼントされたの?」と聞くと、「BTSのチェキです」と答えます(BTSは韓国の7人組ヒップホップグループ、チェキはその場で写真が印刷できるインスタントカメラ。「BTSのチェキ」とは、BTSのヒット曲とチェキがコラボレーションした人気商品)。
それでも30秒にもなりません。だから「どうしてそれをプレゼントされてうれしかったの?」と聞くと、ようやく何を伝えたかったかに気づきます。
この子の場合なら、「とてもうれしかったのは、誕生日にBTSのチェキをプレゼントされたことです。わたしはBTSの大ファンです。去年、ヒット曲Butterとコラボしたチェキが発売されて、わたしはどうしても欲しかったのですが、人気商品ですぐに売り切れてしまい、手に入れることができませんでした。そのことを知った友だちが、わたしの誕生日にサプライズでプレゼントしてくれたんです。プレゼントもうれしかったけれど、友だちがわたしの欲しいものを覚えていてくれたことがすごくうれしかったです。ありがとうと何回も言いました」。
何かを手に入れたときに感じる楽しさやうれしさは、手に入ったモノ自体よりも、手に入れるに至る経緯にあるのかもしれません。プレゼントされたチェキより、自分のことを気にかけていてくれた友だちの存在がうれしかったのです。
言葉で体験を伝えるのが表現力であり、そこにコミュニケーションの力を見いだすとするなら、単に楽しかったことやうれしかったことを羅列するだけでは不十分です。絵日記ならそれもいいでしょう。でも、コミュニケーションの手段としての表現力とは、自分の思いを言葉で伝えたとき、相手に「なるほど、それは楽しかっただろうね、うれしかっただろうね」と膝を打ってもらえるようでなくてはいけません。そしてまた表現力は、口頭だけでなく、文字で伝えるときにも求められます。
学習指導要領では、言語に関する能力を育成する中核的な国語科において、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」のそれぞれに、記録、要約、説明、論述といった言語活動を例示しています。これらは国語科にとどまらず、すべての教科学習に必要です。子どもたちの言語活動を充実させるために、わたしは今日も子どもたちと1分間のトークセッションをしています。でも、実のところ、わたしがこの1分間トークをするのは、楽しかったこと、うれしかったことを話しているときの子どもたちを見るのが楽しみだからです。子どもたちの顔には、なかなか言葉が浮かばず、それでも楽しかったことをなんとか伝えたいというもどかしさが感じられ、そのいじらしさについ応援したくなります。
伊東 達矢
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