伊東達矢校長ブログ

2026.07.15

「怒らないから言ってごらん」の落とし穴

 子どもを叱るのは大人の大事な役目です。
 褒めることも大切ですが、それと同じくらい叱ることも必要です。
 学校で、間違ったことや危険なことをした子どもを叱るのは教師の仕事です。
 学校の教師は正確には「教諭」と言い、各教科の学習指導をするだけでなく、生活指導を通して子どもの心身の健全な発達を促し、また担任は学級活動、掃除、給食などをつかさどってクラスをまとめます。叱ることが仕事の日常にあるのは、他の職業にあまり見られない特徴ではないでしょうか。
 学校教育法に「懲戒」という言葉があります。児童・生徒に対し、戒めるべき言動を繰り返させないという教育目的に基づいて教師が指導することです。事実行為としての懲戒には、注意、警告、叱責、説諭、訓戒があり、あとのほうが重くなります。ただし、教育現場でこれらを厳密に区分することはほとんどなく、一括りに「指導」と呼んでいます。
 指導を受けると、子どもたちは「先生に怒られた」と言います。
 子どもにとって「叱られる」イコール「怒られる」なのは、今も昔も変わりません。
 廊下を走ったり、いたずらをしたり、嘘をついたりしたことで、きょうも学校で叱られている子どもがいます。そして「怒られた」と思っています。
 大人はよくこう言います。
 「怒らないから言ってごらん」
 でも子どもは知っています。正直に言うと、怒らないという約束が反故にされることを。子どもは、正直に言わなければよかったと後悔し、わが身を守るために学習します。つまり、怒られないように嘘をつくようになります。
 こうした嘘は一概に責め立てられるものではありません。子どもの嘘を大人は見破りたくなりますが、とことん詰めるのはどうでしょうか。大人でも嘘の一つや二つ、つくでしょう。
 単純に「嘘はダメ」と押し通すのは現実的ではありません。嘘をついたいきさつや背景を考えることに意味があります。
 「嘘も方便」と言います。嘘をつくのはよくないけれど、物事をスムーズに運ぶには時として嘘も必要だという意味です。
 コミュニケーション力が重要だと言われる今日、子どもも対人関係に悩んでいます。そんな中、相手の嘘をダイレクトに指摘して関係を途絶えさせるくらいなら、嘘だとわかっていてもあえて指摘せず、関係をうまく続けようとするのが建設的です。とかく白黒をはっきりさせたがる風潮がありますが、スマートな人間関係を構築するには、相手の嘘や間違いをことさらあげつらうのではなく、「そういうこともあるかも」と相手に歩み寄る気持ちで接するのがいいのではないでしょうか。
 相手を論破してもいっときの快感にすぎず、その後のコミュニケーションは円滑になりません。けんかした子どもたちの仲直りの様子を見ていると、「まあいいか」「もういいよ」といったふわっとした結末になることがよくあります。
 もちろんモヤモヤした気持ちを抱えたままのこともあります。わたしはそんなモヤモヤ感を持った子どもの話を聞くことにしています。解決を導くアドバイスはしませんし、できません。でも客観的に決着をつけるよりも、今後に向けた納得感を自分の中に持つことのほうが未来志向である気がするのです。

「続・ノーマン・ロックウェル展」横山美術館

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